ストーリーメーカー(大塚英志)

----- 人は機械のように物語ることができる ----------------------------
 ・「物語の文法」を知らずとも優れた物語を書く人はいる。しかしそれは知らないのではなく、自然に身につけてしまっただけ
 ・本書は、30の質問に答えることで、自分の内にある漠然としたものを「物語の構造」にはめ込んで出力するためのマニュアル
 ・おそらく「物語」は、システマティックに考えていけば論理的につくれる
 ・「機械」を介して書くことの先に人の「固有性」は現れうる
 ・大抵の「私語り」が鬱陶しいだけなのは、「物語る技術」によって美的にも論理的にも支えられていないから
 ・「プロップの31の機能/ランクの英雄神話論/キャンベルの単一神話論」

----- 物語の基本中の基本は「行って帰る」である ----------------------
 ・瀬田貞ニによると「行って帰る」物語が「小さい子どもたちにとって、その発達しようとする頭脳や感情の働きに則した、一番受け入れやすい形」
 ・「行って帰る物語」にとってまず第一に重要なのは、「境界線」を超えて「向こう側」に行くということ
 ・「境界線」の「向こう側」の世界は、「こちら側」からは十全にはうかがい知れない未知の世界
 ・「未知」に触れるだけなら、行きっぱなしでいい。しかし「帰る」ことで初めて、元に居た場所の意味が確認できる。「現実」を再発見するのが「物語」
 ・「怖い」とは、恐ろしい怪物に襲われるホラー的な経験ではなく、「一人」で「向こう側」にいることの不安
 ・成年式(あるいは「通過儀礼」や「イニシエーション」ともいわれる)は、三つのプロセスから成り立っている。「向こう側に行く/象徴的な死/向こう側から戻ってくる(再生)」
 ・「行って帰る物語」とは、人が子供から大人になる、成長のプロセス
 ・「異類譚」とは、この世の者でない異性が主人公のもとにやってきて、結婚した後、再び去って行くというもの。「やって来て去る」(「行って帰る」と視点が違うだけ)
 ・「物語」とはまず、世界と世界に一本の線を引き、そして、その一方から他方に「越境」し、再び戻ることでそこに出現するもの

----- 物語を構成する最小単位とは何か --------------------------------
 ・ウラジミール・プロップがロシア魔法民話を科学的に分類しようとしたところ、たった一つの「構造」しかないことを発見した
 ・プロップは、民話を構成する「最初単位」を見出して、その「最小単位」の組み合わせのパターンによってこれを分類しようとする試みた
 ・最小単位とは、それを複数組み合わせることで新たな意味が生成する、というところにポイントがある
 ・映像を二つ以上並べると、一つの映像が他の映像の意味に対して影響を及ぼす性質を「クレショフ効果」という(たとえば、スープの映像を見せた後に、無表情な男性の映像を見せると、「お腹が減った」男性に見えたりする)
 ・単独では「意味」の成立しないカットの組み合わせによって「意味」を成立せしめるのがモンタージュ
 ・プロップは昔話の最小単位を「機能」と呼び、その構成のされ方を「構造」と呼び、ロシア魔法民話は一つの構造しかないと結論づけた
 ・プロップが発見した31の機能「不在/禁止/違反/情報の要求/情報の入手/策略/幇助/加害あるいは欠如/派遣/任務の受諾/出発/先立つ働きかけ/反応/獲得/空間移動/闘争/標付け/勝利/加害あるいは欠如の回復/帰路/追跡/脱出/気づかれざる帰還/偽りの主張/難題/解決/認知/露見/変身/処罰/結婚ないし即位」
  ※いくつか抜けたり同じもの繰り返したりはするが、順序は決まっている
 ・「欠如」「回復」は「物語」の一番基本の文法
 ・「構造に従って書く」と作り手の個性が奪われると感じるかもしれないが、「肉付け」や「選択」の中にこそ明確な作家性が発現する

----- 英雄は誰を殺し大人になるのか ----------------------------------
 ・アートや文学にありがちな「自意識」は、「物語の構造」によってバイアスをかけられ、鋳型にはめ込まれ、ようやく人様にお見せできるものになる
 ・作品が「物語論」の応用で描かれているとすれば、未完の結末を予想することは可能である
 ・オットー・ランク「英雄誕生の神話」(折口信夫のいう「貴種流離譚」)
  1.英雄は、高位の両親、一般には王の血筋に連なる息子として生まれる
  2.彼の誕生の前後には両親に様々な困難が伴う
  3.予言によって、父親が子供の誕生を恐れる
  4.子供は、箱、籠などに入れられて水辺に捨てられる
  5.子供は、動物やその社会の中で身分の低い人々によって救われ、主人公は本当の両親を知らずに育つか仮の親によって養われる
  6.大人になって、自分が貴い血筋の持ち主、貴種であることを知る
  7.子供は、生みの父親に復讐する
  8.子供は認知され、最高の栄誉を受ける
 ・英雄誕生の神話において重要なのは、「父殺し」
 ・エディプス神話においては主人公は父を殺す一方で、母と契る運命にある
 ・物語論によって物語ることは可能である

----- ディズニー/ピクサー方式のストーリー開発 ----------------------
 1.コンセプトアート(作品のイメージを規定するためのイラストを描く)
 2.ストーリースケッチ(ストーリーマンとアニメーターが二人一組になり、演技やセリフ、BGMまでイメージした詳細な場面を一つの絵に起こす。同じ場面を複数の組が作り、各々プレゼンテーションを行う)
 3.ストーリーボード(ストーリースケッチを展開順に並べ、よりよい展開を検討する)
 4.ストーリーリール(完成したストーリースケッチに暫定的なアフレコをして編集する。動かないアニメのようなもの)

----- ジョゼフ・キャンベルの三幕構成 --------------------------------
 第一幕「出立」
  1.冒険への召命(幼年期の終わり)
  2.召命の辞退(大人になるのは怖い)
  3.超自然的なるものの援助(すごい力やアイテムの入手)
  4.最初の境界の越境(向こう側への門、境界守)
  5.鯨の胎内(象徴的な死)
 第二幕「イニシエーション」
  1.試練への道(延々と続く試練)
  2.女神との遭遇(女神の愛に相応しいか試される)
  3.誘惑者としての女性(女神と結ばれる、母からの独立)
  4.父親との一体化(父を乗り越える、和解、一体化)
  5.神格化(完全な姿への変身)
  6.終局の報酬(持ち帰る宝の入手)
 第三幕「帰還」
  1.帰還の拒絶(帰還をためらったり邪魔が入ったり)
  2.呪的逃走(不思議なアイテムを使って脱出)
  3.外界からの救出(外界側から助けてもらう)
  4.帰路境界の越境(象徴的な死、帰還)
  5.二つの世界の導師(悟りを開く)
  6.生きる自由
 ※映画、漫画、アニメやゲームなどにおいて、繰り返される部分は「試練への道」(課題をクリアして何かを得る)
 ※キャンベルの神話論では物語の構造は心理学的に「解説」される

----- ハリウッド映画の物語論 ----------------------------------------
 ・ドビゼールの実験。抽象的な構造を示し、そこから「ヴァリアント」、すなわち構造は同一だが物語としての外見は全く異なる物語を創作させる
 ・ロラン・バルトによると、「三面記事」が理解し易いのはその中の情報が物語として完結しているから
 ・一つの表現が文化圏や国境を越えて届くのは何より「構造」の部分
 ・「神話の法則 夢を語る技術/クリストファー・ボグラー(著)」
 ・ハリウッド映画全てが「ヒーローズ・ジャーニー」の「ヴァリアント」と化した印象さえある。しかしおの一方で、「物語の構造」を「応用」することが少なくとも産業として可能であり、その汎用性や使い勝手は相応の水準にあることだけは確かめられる

----- ストーリーメーカー --------------------------------------------
 ・30の質問に答えてあなたの物語を作る
  ※途中で前の解を修正したほうが良いと思ったら、修正しましょう
 Q1.まずこれから書こうとする物語のうち、頭の中に現状あるものをどのような形でもいいのでとりあえず書いて下さい
 Q2.「Q1」のプロットを一文で言い表すとどうなりますか
 Q3.これから書こうとする物語の主人公について思いつくまま記して下さい
 Q4.主人公が現在抱えている問題を「主人公はXXXが欠けている状態にある」という形で表現して下さい。欠けているものをまず具体的に書き、そして、次にそれが何の象徴であるかを一言で記して下さい
 Q5.主人公の「現在」について設計して、一番イメージに合うものを以下のA〜Dより選択して下さい
  A.まだ、自分の運命を自覚していない、普通の人としての状態(0)
  B.何らかの社会的地位や成功の状態にある(+)
  C.かつて成功したが、今はうまくいっていない(+→ー)
  D.全く成功していない(ー)
 Q6.ログラインを「主人公は×××の状態で△△△を求めているが最後に□□□になる」といった程度のシンプルな文章で作ってみて下さい。これは主人公の内的な変化の定義
 Q7.主人公の現在に影響を与えた「過去」について記入して下さい
 Q8.「Q4」の答えを踏まえて主人公が「欠けているもの」を手に入れるために誰かから与えられる、(あるいは自らこなさなくてはいけない)具体的な課題やミッション、クエストは何かを考えて下さい
 Q9.その外的な目的や課題を主人公が最終的に達成するか否か
 Q10.その結果象徴的に手に入れるもの、ないしは失うものは何ですか
 Q11.主人公の目的達成を妨害するキャラクター、「敵対者」は誰ですか
 Q12.主人公と敵対者の価値観や考え方はどう違いますか
 Q13.主人公の傍らにいて目的達成を助けるキャラクターは誰ですか
 Q14.主人公を助ける中心的キャラクターが主人公を助けるのは何故ですか
 Q15.主人公を庇護したり主人公が成功するポイントとなる力、アイテム、アイデア、知恵などを与えてくれるキャラクターは誰ですか
 Q16.主人公が「Q15」のキャラクターから援助を受けるのは何故ですか
 Q17.主人公の生きている「日常世界」はどういう場所・環境ですか
 Q18.その日常に危機が迫っていることを予感させるできごとは何ですか
 Q19.その日常はどのように具体的に脅かされますか
 Q20.主人公が行動を起こすきっかけとなる「使者」「依頼者」は誰ですか
 Q21.主人公は行動を起こすことをためらったり、誰かにとめられます。そのくだりをつくって下さい
 Q22.主人公の行動に対して何かタブー(縛り)を与えますか
 Q23.主人公が物語の中で到達する「日常」と最も離れた場所はどこですか
 Q24.主人公は、そこで直面した問題をどうやって解決し、その結果、主人公はどう変わりますか
 Q25.主人公が目的を達成するために失ったものは何ですか
 Q26.敵対者と直接、対峙した時、主人公は敵対者を理解しますか。和解したり、赦すことは。赦せないとしたら何故、どこが
 Q27.この物語の結末において主人公の生きる環境はどう変わりますか
 Q28.これまでの回答をもとにストーリーを下記項目にまとめて下さい
  ※【】はキャラクターなど固有名詞、()は具体的な内容
  日常の世界(   )
  非日常の世界(   )
  A.主人公が欠落させているもの(   )
  予兆(   )
  使者【   】
  召喚を拒絶させる要素(   )
  賢者【   】から(   )をもらう
  B.第一関門突破の際の門番【   】
  パーティの構成員【   】【   】【   】
  挫折のエピソード(   )
  賢者【   】から(   )をもらう
  C.最も危険な場所(   )
  敵対者【   】
  D.帰還におけるイベント(   )
  主人公が代償として失ったもの(   )
  E.主人公が得たもの(   )
  新しい日常の世界(   )
  ※A日常→B越境→C最も危険な場所→D帰還→E新しい日常
  ※シナリオとしては、B→Cが最も長く、C→DとD→Eは極めて短い。A→Bは最もセオリー化されている
 Q29.ここまでを踏まえて「Q1」のプロットを、「ヒーローズ・ジャーニー」12のプロセスに当てはめて整理してください
  1.日常の世界
  2.冒険への誘い
  3.冒険への拒絶
  4.賢者との出会い
  5.第一関門突破
  6.仲間、敵対者/テスト
  7.最も危険な場所への接近
  8.最大の試練
  9.報酬
  10.帰路
  11.再生
  12.帰還
 Q30.もう一回、あなたのつくった物語を一言でまとめてみて下さい
 ・キャラクターの外見的な特徴などはサイコロで決めても、差し支えない。外見上の特徴は、主人公の内面や物語の構造と結びつかない限り意味はない
 ・主人公の「欠落」を「内的」なものと「外的」なものの二つの面から定義するシナリオ作成技術は、「ハリウッド脚本術/ニール・D・ヒックス(著)」より
 ・外的な物語は人間の内的な物語を「反映」する
 ・神様とのコミュニケーションには「交換」という形式をもって可能であるという考えは、文化人類学的に正確である
 ・「贈与者」や「賢者」が主人公に何かを贈与する場合、その前段に「きっかけ」となる挿話が必要なはず
 ・贈与者が主人公に渡す「アイテム」は「移項対象(ライナスの毛布)」
 ・北山修によると、日本の民話に「見てはいけない」と主人公に禁が課せられ、これが破られるケースが多い
 ・北山修によると、日本人(とくに男)は母子の分離(母離れ)の痛切な痛みに直面していっそう相手との一体感を求める気持ちが強い(「甘え」)
 ・物語の構造を教えると、教えていない物語の構造まで自力で引っ張り出してしまう、という学生は毎年、必ずいる
 ・物語は失った物の重さによって得たものの価値を表現したがる

----- 「物語」は何故畏怖されるか ------------------------------------
 ・昔話が発端区と終末句という決まりごとのフレーズによって閉じられたものである、というのは民俗学の初歩
 ・柳田國男によると、「ウソ」には人を詐術として欺くもの(イツワリ)と、そのウソを一つの芸事として人を楽しませるもの(ウソ)の二つがあった。この後者のウソが「物語」の一つの起源
 ・「共同性」の範囲が狭ければ、非言語的コミュニケーションは成立し易いし、それが不特定多数に拡大すれば、そこには新たに「ハナシ」を用いた共同性の成立が必要になる
 ・Web上のコミュニケーションツールの流行がめまぐるしく変わっても「人の弱みや後ろ暗いこと」についての「内証話」のために「無闇に」「発達」していっているに過ぎず、「ハナシ」を介して人が一つの「歴史」(社会や公共性とも呼べるもの)を作っていく枠組みがWeb上には結局、出来上がっていない
 ・個々の人間が「ハナシ」の技術を持ち、コミュニケーションとネゴシエーションによって公共性を作っていく社会運動が柳田民俗学の「公民の民俗学」としての側面
 ・歴史と社会をいかに作っていくのかを一人一人が自身の経験や身近な事実を積み重ねて、同じような手続きをもって書かれた知識と合わせ、互いに話し合いながら共通の枠組を作る試みのための技法は結局、成立し損なった
 ・共同の枠組を作るために「ハナシ」ではなく「物語」を援用してしまったことが失敗の本質である
 ・「情報」は、なるほど、Webにもそこかしこに溢れ返っている。しかしそれは「ハナシ」ではなく、ひどくわかり易い「物語」に収斂していく。そして、その「物語」を「大きな物語」と人は錯覚し、だから「歴史」はこの国に於いては今も不在である

----- あとがき ------------------------------------------------------
 ・「ジャンク」を素材に「物語メーカー」を発動させ、誰かの「自我を代行」したとき、狂信的な新興宗教の教祖と同じになる
 ・「空気」というひどく耳慣れた語法は、戦時下の統制用語としてあった。その「空気」なるものが「物語メーカー」を動かし、それに当の大衆が自ら動員されるシステムが出来上がった
 ・いずれにしろ実際に物語らなければ実感できない経験がある。本書は「読む」ためのものではなく「実用」「実際に使う」ための本としてある

 ※本文章は「ストーリーメーカー/大塚英志(著)」を引用または要約して記述したものです
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