超偏愛!映画の掟(荒木飛呂彦)

----- まえがき ---------------------------------------------
 ・エンターテイメントの基本は「サスペンス」にある
 ・サスペンスはミステリーだけでなく、ラブストーリーやコメディ、子供向けのアニメの中にも存在する
 ・よい物語には必ずサスペンスがある
 ・好きだった映画を研究して、そこから「面白い」の正体を探ろうとした
 ・好き嫌い、流行り廃り、世間に受け入れられる、評価されていない、そういった要素と「面白い」は関係ないことを発見した
 ・「面白い」ものには、時代に左右されない、不変の法則があると考えた
 ・よいサスペンス、5つの条件
   1.謎(サスペンスを構築するために、必ず必要)
   2.主人公に感情移入できる(存在にリアリティがあって、言うことに説得力があって、たたずまいに雰囲気があれば、好き嫌いに関わらず共感できる
   3.設定描写(よい設定があれば世界観に没入できる。日常の世界も見方を変えれば知らない世界、知っている世界も深いところは知らない世界)
   4.ファンタジー性(日常でありながら非日常の世界、隣の世界)
   5.泣ける(もっとも重要な要素、究極の共感)
 ・5つの要素が綺麗に5角形になると、名作が誕生する
 ・現実世界の不安を癒してくれるのが、サスペンス映画
 ・ひたすら幸福な映画は、見終わると幸福な夢から覚めたような虚無感がある
 ・一部の天才を除いて、大体の作家はその作家ならではの「法則」を研究して、自分の作品にそれを反映させているはず。自分もその一人

----- ベストオブベストは「ヒート」と「96時間」 -----------
 ・登場人物に感情移入して涙しながらも、ストーリーにハラハラせずにはいられない映画を「男泣きサスペンス」と呼んでいる
 ・「96時間」の秀逸なのは、開始5分で泣かせるストーリー展開の素早さ
 ・泣いて癒されたいときにいつも「96時間」を観ている
 ・プロフェッショナリズムは「男泣きサスペンス」には不可欠(間抜けに感情移入はできない
 ・「男泣きサスペンス」の最高峰が「ヒート」。完璧で、超名作で、大傑作。ヒマがあったら観ては、何度でも泣いている
 ・「強さのインフレストーリー」には懐疑的だが、「期待のインフレ」は歓迎

----- 名作の条件とは「男が泣けること」 ---------------------
 ・「男泣き」とサスペンスはリンクしている。「男泣き」の要素のひとつに、得だったり楽だったりする道を選ばず、あえて茨の道を選ぶという行動があり、泣ける。同時にその行動の先に「きっと困難が待ち受けているだろう」という予感が付随する。これがサスペンスの大きな軸として機能する
 ・「大脱走」は、ある意味、「それでも行く」の逆をいく映画
 ・「大脱走」は脱走劇なのにもかかわらず、スポーツを観ているような感覚になる珍しい映画
 ・「男泣きサスペンス」では、仲間の友情だけでなく、時には敵対する者同士の友情に涙することもある
 ・よいサスペンスの条件のひとつ「脚本に無駄がない」
 ・古い男という存在も「男泣き」を誘うポイント
 ・古い男への哀愁が「スティール・ボール・ラン」のリンゴォを描かせた
 ・「男泣きサスペンス」は、観ている間は随所で悲しいなと感じても、観終わった後、なぜかいい気分になる
 ・自分の生き方を捨てたらダメなんだ、というメッセージに、観る者は希望を感じ、すがすがしい気持ちを覚えるのだろう

----- サスペンスの巨匠たちのテクニック ---------------------
 ・当時、熱心に作品を分析した監督がジョン・ハウとロバート・アルドリッチ
 ・スピルバーグの映画は、公開前から作品が謎めいていて、そこからもうサスペンスが始まっている
 ・理屈を聞いて、観客が「ありうる話だな」と思えるリアリティが「ジュラシック・パーク」をただのモンスター映画以上のものにしている
 ・よいサスペンス作品は、ストーリーが起承転転転転転転転転転転とずっとエスカレートしていく。この構成だと、話がシンプルかつ力強くなる
 ・スピルバーグ最大の特性は、ひとつのシーン中に、同時に複数のアイディアを詰め込むこと
 ・スピルバーグを見習い、短編漫画を描くときは、いろいろな要素を同時に含めながら、話を展開させることを心がけている。そうするとページが少なく話がシンプルなのに厚みが増してくる
 ・重厚なテーマの素晴らしい映画は、題材さえ見つかれば撮れるような気もする。しかし、3つも4つもある要素を一緒の車に乗せて同時に描いていくのは、驚異的な離れ業
 ・サスペンスの師の一人となっているのが、ブライアン・デ・パルマ
 ・「殺しのドレス」と「サイコ」の何が見事かというと、今まで観ていたストーリーが全否定されることで、「今まで自分が登場人物に感情移入していた話は何だったんだ?」と観客が突き落とされた気分になること。今まで気づいてきたものが、あっという間に消え去る面白さがある
 ・デ・パルマはここぞというとき、何秒もの間カットのない長回しで一気に撮影していく。すると映画としては、ひとつの固まり、ひとつの流れの中にあるから、(主人公が切り替わったり映画ジャンルが変わっても)話が切れず、次へとすーっと移行していく
 ・デ・パルマの手法は、何度か漫画で使った。たとえば「ジョジョの奇妙な冒険 第4部」の仗助と康一の視点で描いておいて、横断歩道で吉良とすれ違った時点から、吉良の視点に変わるところ
 ・デ・パルマ作品は、あらゆるシーンに、細かい伏線が細かく張られている、二度観よう
 ・現実離れしたヒーローを扱うときは「そんなバカな」というぐらいのありえなさがしっくりくる
 ・デ・パルマ作品は、サスペンスありきのストーリー。意外性のある話を構築して、その後にリアリティを考える。サスペンスのためのひとつのツールとしてストーリーがある

----- 情事・エロチックサスペンス ---------------------------
 ・情事が鍵を握るエロチックサスペンスは、あまりよいイメージをもたれていないが、自分はかなり尊敬している
 ・多くの情事サスペンスは、女性の裸だけが唯一の武器、というレベル。しかし、その中の数少ない傑作が、相当な傑作
 ・情事サスペンスの傑作が少なくなる4つのハードル
   1.脚本(女性の裸を目当てに観られるので、脚本はあまり練らない)
   2.スタッフの心意気(世間に受け入れられず、興行的に不利)
   3.女優の脱ぎっぷり(中途半端に脱いでいるものは、観るに堪えない)
   4.監督の資質(サスペンスとエロのセンス、両方が必要だが、このふたつはなかなか備わらない)
 ・いきなりファンタジーの世界を提示しても、観客は入り口が見つからず戸惑う。現実とファンタジーの中間地点を使って観客をファンタジーの世界に誘う
 ・「危険な情事」では、出てくるアイテムがいちいちいやらしく、本当にさりげないが、情事の暗示としてセンスよくちりばめられている。だからファーストコンタクトで二人が情事にまで至らなくても、観客の心の中に「この先、どうなるんだ」というサスペンスが芽生える
 ・都市伝説を彷彿とさせるリアルな感覚は、人の心をくすぐる(なさそうでありそうなギリギリのラインであるほど、刺激が強くなる)
 ・ホラー映画も都市伝説の匂いがするほど怖い作品に仕上がるが、サスペンスにもその匂いが必要
 ・よい作品はアイテムに凝っている
 ・情事サスペンスに欠かせないのが、悪女(ただ悪いことをしている女性ではなく、どこかかわいらしさと純粋さが残っている女性)
 ・男女間の複雑な愛の形を描かせたら、普通のラブストーリーよりも情事サスペンスのほうが優れているのではないか
 ・駆け落ちは芸術作品で扱われやすいテーマ
 ・男泣きサスペンスは、たとえ主人公が死ぬような結末でも、観終わった後、とてもいい気分になる。しかし、情事サスペンスやラブストーリーは見ているときは楽しいし、ハッピーエンドで終わることも多い。なのに観終わった後は、澱のようにイヤな感情が必ず胸に残る

----- イーストウッドはジャンルだ ---------------------------
 ・映画界で、昔も今も確固たるブランドを築いているのが、クリント・イーストウッド。テクニックがしっかりしていて、とにかく無駄なことをしない
 ・完全に虜になったのが、「ダーティハリー」
 ・社会から「はみだした」感じが、イーストウッド映画の主人公には必ずといっていいほどついて回る
 ・自分なりの定義では、正義を貫いて悪を倒す者でも、社会から理解されていたらそれはヒーローではない。世間は誰も目を向けないし、仲間に慕われることも、お金が儲かったりすることもない。常に孤独。それでも社会のために行動するのがヒーロー
 ・ヒーローは、襲ってくる敵を何の苦もなく倒してしまうような、ぶっ飛び過ぎているキャラクターだと感情移入できない。どこかで本当にいるかもしれないと思わせる、微妙な日常性が必要
 ・イーストウッドは日常と非日常の境界線上にいる、絶妙なキャラクターをうまく演じる
 ・実際にイーストウッドに会う機会に恵まれたとき、「キャラ作りで心がけていることは何ですか」と訪ねた。返ってきた答えは「特に計算してないね」。イーストウッドは計算とは無縁の世界にいる、運命に導かれたヒーローなのかもしれない
 ・当時、アクションを武器にしていたハリウッド俳優は、年を取ると消えていくか、イメージチェンジを図った。しかし、イーストウッドは自分の年齢と向きあい、年を重ねた哀愁を映画に取り入れて逆に利用してしまった
 ・全てが逸脱しているとただのファンタジー、「これは別世界の話だな」と思われ観る者に緊張感を与えない。あくまでも日常のリアリティが土台にあって、そこからちょっとずれていくことで、観る者を引きこむ優れたサスペンスになる
 ・イーストウッドは地味なシーンで、人間の心の黒さをさりげなく描く
 ・イーストウッドの映画を観ていると、動物や子供といった、いかにもプロデューサーが好みそうなヒット要素を並べなくても、面白い作品はできることを痛感する。それは漫画も同じことで、肝に銘じなければならない
 ・神話の世界を描くのには、神や精霊といったものを登場させればいいわけではない。リアリティを積み重ねたその先に、神話的世界を見せることができる
 ・空条承太郎は、イーストウッドのように立っているだけで絵になることを目指したキャラクター

----- この映画、軽く見るなよ! -----------------------------
 ・ファンというのはこだわりをもっている。中にはこだわりが偏向と呼ぶべきレベルに達している人を見かける
 ・シリーズ映画は軽く見られがち
 ・予想を裏切るというのは、サスペンスのひとつの手法で、先の読めない展開に観客は吸いこまれる
 ・「悪人は食べ物を粗末に扱う」ように飲食の描写でキャラクターの性格や心情を表現する手法があると聞いたことがある
 ・あまりにもメジャー感のある映画は叩かれ、逆にマイナーなカルトムービーはもち上げられる傾向がある
 ・時に歴史ものは、描かれる時代が古いせいで、共感を得にくいことがある。しかし、現代のおばあさんの目を通して語られることで、今と接点が生まれ、一気に現実味を帯びてくる(「タイタニック」)
 ・平行して進むいくつかの話が、やがてひとつにまとまるであろうことは予想がつく。ではそれが収斂したとき、一体どんな全体像を結ぶのか?そうやって期待させるのは、サスペンスのひとつのテクニック
 ・一本の映画で収まらなくなった物語を、現代ではテレビドラマが補っている
 ・「この難局を乗りきれるのか?」と手に汗を握る展開は、サスペンスの基本

----- 名作には都市伝説が必要だ -----------------------------
 ・都市伝説感のあるものは、本当に存在するのではないかという好奇心と、何より「見てみたい」という欲望を刺激する。これを物語に落としこむと、強いサスペンスを生む最強のアイテムになる
 ・時代が変わってもなくならない映画のジャンルに、脱獄ものがある
 ・脱獄という設定だけで、どうやって逃げるのか、成功するのか失敗するのか、という強烈なサスペンスができあがる
 ・「ストーン・オーシャン」の取材で、マイヤミの刑務所を訪れた。向こうは刑務所のビジネス化が進んでいるため、お金を払えば見学できる
 ・音にも何らかのメッセージを込めることが可能

----- あとがき ---------------------------------------------
 ・「理屈抜きに楽しい」とは、具体的にいったいどういうことをいうのか?「ハッピーなきもち」になれるストーリー、とは、どんなものなのか?あるいは、人が感じる「有意義な時間」とは、どんな体験をさすのか?そういうことも具体的に考えなければ、作品は作れない
 ・まず、自分が「面白い」と感じた映画を分類することにした(一般の評価や批評家の評価はあまり考えないことにした)
 ・自分の選んだ作品の「魅力の傾向」や「物語の構造」を比較していくと、それらに共通するのは、サスペンスのテクニックを使用した「ストーリー作り」に魅力があることだ、と気がついた
 ・「人間」とは、家族や仲間、友人、恋人のことを何より大切にしている存在で、それこそが人生に目的を与えくれるといってもよい。しかし、何かとても大切なことを決断するとき、あるいは病気になったとき、お腹が空いたりしたときには、結局のところ人間は「ひとりぼっち」。そして「ひとりぼっち」は、まさにサスペンス映画やホラー映画で描かれる状況そのもの
 ・サスペンス映画やホラー映画は、寂しさに打ち震える恐怖を癒してくれる。これこそ映画を観ることで得られる「理屈抜きの楽しみ」であり、有意義な時間なのではないか

----- 荒木飛呂彦が選ぶサスペンス映画 BEST20 ---------
 1.ヒート
 2.大脱走
 3.96時間
 4.ミスティック・リバー
 5.許されざる者
 6.サイコ
 7.天国から来たチャンピオン
 8.シュレック
 9.ファーゴ
 10.ダーティハリー
 11.ボーン・アイデンティティー
 12.シティ・オブ・ゴッド
 13.激突!
 14.アイズ・ワイド・シャット
 15.バタフライ・エフェクト
 16.マスター・アンド・コマンダー
 17.運命の女
 18.フロスト×ニクソン
 19.バウンド
 20.刑事ジョン・ブック 目撃者
 次点.レザボア・ドッグス

 ※本文章は「荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟/荒木飛呂彦(著)」を引用または要約して記述したものです
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